ハゲ・薄毛を「魅せる」社長の日記

美薄毛研究家・劣等感マーケターの松本圭司が日々感じたこと、考えたことを不定期に発信中!

大企業勤めの迷える・惑える中堅世代

書籍を出させて頂いたり、メディアに取り上げて頂くことでカルヴォのことを知って頂いたり、私のことを知って頂く機会が増えてきたことを実感する今日この頃。

昨年あたりから、遥々遠方から会社の休みを取って会いに来て下さるという奇特な方々が増えてきた。といっても、来て下さる方は別に薄毛に悩んでいる方とは限らない。むしろ髪はフサフサの方が多い、なぜか(笑)。企業勤めの悩める30代、40代の方々が中心だ。ぶっちゃけ人生相談に近いことで来られるのだ。

もちろん、多忙な時に会いに来られても対応出来ないこともあるのだが(ごめんなさい)、基本よほど時間のムダと思われる案件以外はお会いするようにしている。

というのも、世の中に無数にある本の中から拙著を選んで下さり、買ってくれ(Amazonの中古で買いましたと正直に告白する方も中にはおられるが)、連絡を取り、遠くまで来られるということはのっぴきならぬ事情がおありだろうと思うからだ。

あとは、人生相談や何やらで来られることに対して、私自身が実際にお会いして自分の勝手な持論を話しているうちに、それまでなかなか上手い表現が出来なかったことが、不思議と整理され、いいあんばいの言葉で説明できるようになったりすることがあるので、その場として活用させていただくという理由もある。これはきっとこれを読んでいる読者の中にも経験がおありの方もいるかもしれない。

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で、昨日も誰もが知っている食品メーカー勤務(もちろん大企業)、東京在住、奥様+小さいお子さん2人で暮らしておられる30代中盤の男性がはるばる関西に会いに来てくれた。「おもしろいを仕事にする」を読んで私にコンタクトしてくれたとのことだった。他のビジネス本では成功事例が美しく描かれているのに対して、拙著については成功どころか、失敗事例ばかりが書かれているので、かえって参考になったので、実際そういう失敗を繰り返している松本に会いに行こうと思ったらしい。

そこで、事前に待ち合わせ場所として決めていた喫茶店での初対面の挨拶もそこそこに、コーヒーを飲みながら、本題に入った。

聞くところによると、あまりというか、何も考えずに新卒で今の食品メーカーに就職し、はや10数年。地方の営業マンとして活躍したのち、今は本社で商品開発担当として働いているが、社内で自分の意見がまるで通らない。ましてや、自分が上司に提案したことが「君がいなくなったあとの後任者が手に負えない事案なら提案するのはやめてくれ」と言われる始末とのこと。言わば、先日投稿した一橋大学大学院・楠木建教授の「余人を持って代えがたい状況」を創ろうとしても、それを拒否られる状況に呆れてしまったなどのエピソードを語ってくれた。それは、「うんうん、オレも同じこと思ったよ」と頷きながら聞いていた。

当たり前だが、同じ社内で何の価値も産み出さずに会社に属しているだけという人間なんぞごまんといる。で、たまに(私もそのうちの一人だった)、仕事を一通り覚えた10数年を経た頃にこの「何か違うぞ」と気づいたは最後、「不惑」を迎える40代に突入する前に「激惑」(激しく惑う)の状況に陥るビジネスマンが一定割合存在することが経験上分かっている。

もちろん、初めから迷う、惑うことなく、与えられた環境の中で、与えられた仕事に何の疑問も持たずにサラリーマン人生を終える人間も山ほどいるだろう。

この方は非常にマジメな人で、別に入社面接でもないのに、これまでの経歴や自分の関心のある領域を手書きながら、ちゃんと整理して書いてきた。ま、それもしない人間が相談に来ること自体論外なのだが。

非常にキャラのいいナイスガイであったが、話の筋というか、考えていたこと、やっていたことが私の10年前、15年前と同じだったのはある意味笑えたところではあった。しっかり自己分析して、紙に書き出すことも私もやったし、小さな行動をやり始めるところからスタートすることも彼はしていた。

今何をしたいのかは模索中だが、独立することも視野に入れたいとのだった。本格的に考え始めたのが今年に入ってとのことだったので、何をやるのかを決めるのにもあと数か月か、あと何年かはかかるかもしれない。

話を聞いていて、彼の認識が決定的に間違っていたのは、「サラリーマンを頑張れば起業に役立つ」という点だった。独立、あるいは起業することはサラリーマンの延長線にあると思っていたようだ。これは昔の私も間違った認識をしていたが、残念ながらサラリーマンとしての能力を幾ら上げても、起業家としての能力を向上させることには全く寄与しないのだ。パワポで資料を作るのが上手くなるくらいは投資家や金融機関向けの資料作りに役に立つかもしれないが、それも上手くなりすぎてもしょうがないというものだろう。起業家はやることなすこと、上手くいかないケースに遭遇することが多い、っていうか殆どだ。

これも私の持論でしかないのだが、当たり前だが、サラリーマンで偉くなる人物は成功回数が多いから、そのポジション、職位にいるのであって、失敗回数が多いからその立場にいるわけではない。逆にいうと、サラリーマンの上層部にいる人間は決定的に「失敗体験」が少ないのだ。もっというと、人生における失敗体験が無さすぎるため、失敗がどういうものなのか、失敗からの挽回の仕方を体・頭で理解していない。柔道で言うと、「失敗の仕方=受け身の仕方」を体得していないと言える。失敗を避け、成功することを重ねて偉くなることが至上命題のサラリーマンという職業と、上手くいかない=失敗を繰り返すことが余儀なくされる起業家という職業は全く「別物」といって差し支えない。

サラリーマンが起業家になるのは、泳ぎ方を知らない「金づち」がプールに放り込まれるのと同じだと思う。でも、泳ぎ方を知らなくとも、何とか溺れないように岸に辿り付こうとバタバタするか、浮いている発泡スチロールに捕まるなどして、生き延びようとするのと同じように、結局その場になったら、何とかしようとするものだろうし、そう出来ないのであれば、溺れる運命だったのだろうと悟ればいい話だ。

そして、この彼も自分に失敗経験が少ない点について認めていた。

で、私から更に彼にそもそもの問いをしてみた。「で、扱ってる商品に興味あるの?」と。そうすると、思い入れは無いとのことだった。想定内の回答だった。殆ど何も考えずに就職した会社の商品に思い入れなんて後から出てこなければ、今後も飯を食うための手段くらいにしか思わないのはごく自然なことだ。

で、畳みかけるように質問をしてみた。「好き嫌いで人生の選択をしたのはいつが最後?」と。高校進学の時に野球で甲子園に出場することを目的に学校を選んだことが最後だったらしい。なので、15歳で好き嫌いで人生を選ぶことを終えている。ここ20年は好き嫌いの判断軸で人生はやっていないと告白してくれた。

遠方から来てくれた彼には最後に伝えたことは「まず自分の名前で1円を稼いでみることかな」ということだった。サラリーマンは1円の稼ぎ方を知らない、知らない人が多いのではないかと思う。あと、カネが無い恐怖をコントロールすること、不安定に対しての耐性・免疫が低い。すると大抵の人間は怖気づいてしまう。

でもそれではっきりするのではないか。恐怖に打ち勝とうとするほど自分にやりたいことはないと気付ければ、もう惑うことはない。そうすればようやく「不惑」を迎えられるのではないかと。